若葉、薫る。


真子が転校してきてから一ヶ月。
真子と再会したころ校庭一面に咲き誇っていた桜は、鮮やかな緑の若葉へと姿を変えた。
わたしの周りは、前よりも騒がしくなった。
わたしの元々の仲良し7人に真子が加わったから。
7人ていうのは、ひよ里、リサ、白、ローズ、拳西、ハッチ、ラブ。
わたしら8人は結束強かったから、真子がうまく馴染めるかなーって不安だったけど。
そんな心配必要なかったみたいで、真子は持ち前の明るさであっという間にみんなと仲良くなった。
ひよ里には敵対視されてるみたいだけど、なんだかんだ仲はいいんじゃないかな?
だから、学校に行くのが前よりも楽しみ。
今日も、初夏の陽光に目を細めながら学校へ向かう。


『みんな、おはよう』
「おはよう名無し」
「おはようございマス、名無しさん」
「名無し!おはようのハ…グハァッ!!」
「何勝手にうちの名無しに触ろうとしてんのや!このハゲ!」
「ひ…ひよ里ィ!人の顔何やと思ってんのや!それに今のはただのおはようのハグや!欧米やったら普通のことやで!」
「あーん?そんな平たい蹴りやすそうな顔しとる方が悪いねんハゲ!それにここは日本や!」
「ハゲやないゆーとるやろ!このチビがァ!」
「なんやとォ!!?もういっぺん言ってみんかい!」
『ふ、二人とも…うるさいよ、朝から…』


こんなの、もう日常茶飯事。
わたしにハグをしようとして、ひよ里に殴られる真子。
うるさいけど、楽しくて愛しい日々。


「ほらー!席つけ!HR始めるぞー!」

担任の越智さんが教室に来て、真子とひよ里は渋々席に座った。

「欠席はなし、よし、優秀。で、今日の連絡事項はー…っと、そうだ。来週は知っての通り、親睦会を兼ねた遠足がある。行き先は空座ランドだ。」


「空座ランド?なーんやそれ」
『あっそうか、真子は知らないんだね。空座ランドっていうのは、3年前くらいにできた結構大きめの遊園地だよ』
「遊園地?なんでまたそないなガキみたいなとこ…」
「はい、平子うるさーい。とにかく、当日は朝9時にランドの正門前に集合!以上、授業行けよー」







遊園地なんて何年ぶりだろうか。
それがいくら近所の遊園地といえども、みんなと回れるのだから楽しみだ。

『遠足楽しみだね、真子!』
「え、そ、そやなっ!名無しっ!」
「嘘つくなや、ハゲ。なーんでそないなガキみたいなとこ行かなアカンのや思とるやろ?」
「えぇーっ、しんずぃーそうなの?楽しみにしてるよねぇ?」
「まぁ、しょうがないんじゃない?あそこは安上がりだから、貧乏校のウチにとっては都合いいんだよ」
「フーッ…ったくよぉ、そんな子供だましなとこ連れてくなよなぁ。」
「だよなぁ。んなとこ行く時間あんならジムでも行った方がマシだろ」
「拳西アホちゃうか?そないなとこ行くよりエロ本買いに行く方が全然ええやろ」
「まぁまぁ、みなサン落ち着いて…遊園地でもいいじゃないデスか…」

みんな文句ばっか言ってるけど、きっと実は楽しみにしてると思うんだ。
だって、わたしが持ってきたガイドブックみんな熱心に読んでるし。
みんなまだまだコドモだなぁ。

「にしても、このガイドブックなんで付箋なんか付いてるの?」

すいません、それはわたしです。
お土産屋さんチェックしてるんです。

『遠足、晴れるといいねぇ…』
「そやな…てるてる坊主でも作っときや」
『うんっ!そうだね、そうしよっ!』
「ガキ………」









やったぁ、快晴!
てるてる坊主、きいたみたい。
作っといてよかった。
せっかく来たんだから、思いっきりはしゃがなくちゃ。


「ほらっ、みんな、次あっち乗るよっ!」
『ちょ、名無し、タンマ…みんな付いてけへん』
「へ?」

あちゃー。やりすぎた。
みんな息ぜぇぜぇしてるなぁ。
ハッチなんて、さっき倒れて救護室行っちゃったし。
それにしてもみんな、体力ないんだなぁ…

「名無し、ちょっと休憩がてら買い物でもせぇへん?」

あっ、そうだ!
行きたいお店あったんだった。
真子、ナイス!

『そうだね!じゃあ、お土産ストリート行こっか!』
「おぉ、行こか。ゆっくりな!」
『わかってるってー!あっ、あのお店可愛いー!』
「オイ、名無し跳んでったで。」
「ゆっくり言うたのに…」
「もう放っておけよ。」







えーっと、期間限定のストラップ売ってるとこは…あ、あった!あそこだ!
よかった、ちゃんと見つかった。
なんたって、今日の遠足の陰のメインだもの。
ガイドブックには見つけにくい店って書いてあったからなぁ。

わたしは、少し跳ねながらその店に入った。
変な人だと思われることなんて気にしない。
それよりえーっと、ストラップ…

『お、これだこれだ!』

よかった、9種類ぜんぶのこってる。
みんなでお揃いでつけたいなーって思ってたんだよね。
どの種類も可愛いなぁ。
誰にどれが良いんだか…
内緒で全員分、こっそり買っとこうと思ったけど、
みんなにどれがいいか聞いた方が早いかな!


『ねぇ、みんなどれがいい?』


そう言って振り返ったわたしの視界に、いるはずのみんなが、8人がいない。
当然、誰からも返事は返ってこない。

『あ、あれっ!?いない…あ、みんな店の外にいるのかな?』

そう思って店の外に出て辺りを見回してみるけど、知ってる顔はどこにもいない。

あっ、そうだ、携帯!
誰かに電話すればいいんじゃん、今の時代便利でよかった…
『って、圏外!?嘘でしょ!?』
えぇ…そういえば、こういう遊園地とかって電波繋がりにくいんだっけ。
やられた……


どうしよう…はぐれた…よね、完全に。
あぁ、もう。本当に高校生なの?自分。
こんなオロオロして、周りキョロキョロ見て。
はたから見たら、完全に迷子じゃない。
恥ずかしい上に情けない…


大きなため息をひとつ、ついた。
そのとき、後ろから誰かの手がわたしの肩にポン、と触れた。
みんな、迎えに来てくれたのかな?


『みんなっ…?』
「君、どしたの?暇ならさ、俺らと遊ばない?てか、めっちゃ可愛いねー!」


なんだぁ、違った…
しかもうちの学校の人ですらないじゃん。
他の学校の人も遠足に来てるのか。
あぁ、もうめんどくさい。
離れてほしい。

『いや、人待ってるんで…すいません。』
「えー?そんなの別にいいじゃん!俺らと楽しく遊ぼーよ!ね?」

グイッ

わたしはその男たちに腕を掴まれた。
やだ、ちょっとどこ連れてくつもりなの?

『ちょっ…やだ、痛い離してよ!』
「うるさいなー、ほら、あっち行こうぜ!」

やだ、気持ち悪いし痛い。
あぁ、なんてツイてないの今日は。
誰か助けに来て、周りの人たち、見て見ぬふりしないでよ!
もうやだぁ!!!!!

『誰かぁっ…離してっ!』







その時、正義のヒーローばりに良いタイミングで天の声が聞こえた。




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